2018年12月31日 (月)

皮膚病雑記帳No.220

人参湯

 

 虚弱な人に処方する漢方薬の一つに人参湯があります。人参湯は胃腸障害に通常処方されますが、私はアトピー性皮膚炎の患者さんにも時々処方しています。人参湯は私がよくアトピー性皮膚炎に処方する真武湯と似た処方ですが、微妙に違いがあります。

 大塚敬節先生は著書、『症候による漢方治療の実際』の中で、「下痢の患者に人参湯を用いる場合に、真武湯証との鑑別が問題になる。一言にしていえば、人参湯は胃にかかり、真武湯は腸にかかる。そこで人参湯証では胃からくる症状、例えば食欲不振、嘔吐、噯気、などがみられ、また胃痛、胸痛などを伴うことがある。これに反し真武湯では、胃からくる症状は少なく、下痢が主である。患者が生気に乏しく、血色すぐれず、冷え症で脈にも腹にも弾力がない点は、人参湯、真武湯ともに共通である。しかし私の経験では、慢性下痢には、人参湯よりも、真武湯証の方が多いように思う。」と記述しています。

 私の場合は、アトピー性皮膚炎の患者さんのお腹を触って、上腹部が冷えている場合には人参湯、下腹部が冷えている場合には真武湯を処方するようにしています。両方とも効いてくると、冷えが改善してきます。

 胃腸の薬が皮膚にも効くのは漢方の面白いところです。

 

2018.12.31記載

 

2018年11月30日 (金)

皮膚病雑記帳 No.219

当帰飲子

11月も下旬になってかなり寒くなってきました。近頃は皮膚が乾燥して痒くなって来院されるお年寄りの患者さんが多くなりました。特に下腿に病変がみられる人が多いようです。下腿は皮膚が薄い部分なので特に乾燥性の湿疹が生じやすい部位です。このような病態を老人性皮膚瘙痒症と呼びます。原則的には痒みのみで皮疹がない場合を皮膚瘙痒症と呼びますが、2次的に湿疹が生じる場合も含まれます。

ところで老人性皮膚瘙痒症によく処方される漢方薬に当帰飲子(とうきいんし)があります。当帰飲子は四物湯をベースにし、その構成生薬の当帰や川芎の血液循環、防風の発汗促進、芍薬の鎮静の各作用は瘙痒に効果的です。補血剤で表寒虚証の場合に処方すると有効です。なお温清飲は皮膚の色つやが悪く、渋紙色の場合に用います。清熱剤で裏熱虚証で、四物湯と黄連解毒湯を合方した方剤です。しかしこれらの処方を用いて一時的に症状が改善しても再燃することがあります。再燃を防ぎ、治癒へ導くためには体質を改善する本治(体質を改善すること)としての治療が必要となります。本治の処方には八味地黄丸、真武湯、桂枝茯苓丸などがあり、体の状態を診て処方する必要があります。

大塚敬節先生の弟子で現代の漢方医学会の重鎮の一人である松田邦夫先生は、著書、『症例による漢方治療の実際』のなかで、老人性皮膚瘙痒症治療の失敗談を書かれています。父親の友人のある著名な日本画家が、何年にも及び老人性皮膚瘙痒症を患っていて、父親に頼まれ治療することになりました。師匠の大塚敬節先生が老人性皮膚瘙痒症に当帰飲子をよく使っていたので、これだと思って処方したがまったく効かないばかりか返って悪化してしまいました。後ほどその画家は実証であることが判って、処方の誤りに気づいたとのことでした。当帰飲子は虚証の人に使う処方だったわけです。失敗談をテキストに書かれた松田邦夫先生の心の広さを感じました。

よく老人性皮膚瘙痒症に処方される当帰飲子ですが、証を見極めて使うことが重要です。

 

2018.11.30記載

 

2018年10月31日 (水)

皮膚病雑記帳No.218

フレイルと漢方薬

 今月27日に松江市で開催された八雲漢方研究会で「フレイルと人参養栄湯」という演題で鹿児島大学漢方薬理学講座特任教授の乾 明夫先生に講演して頂きました。フレイルとはサルコペニア(骨格筋委縮)が根幹をなし、体重減少、疲労感、活動度の減少、身体機能の減弱、筋力の低下などの症状が現れた状態のことです。2~3年ほど前から話題になり、最近世間で認知されるようになってきました。

 人参養栄湯は、補中益気湯、十全大補湯とともに補剤を代表する漢方薬です。これまでは補中益気湯、十全大補湯ほどは処方されていなかったようですが、フレイルを改善する方剤としてよく処方されるようになりました。

 講演の中で印象に残った話は、人参養栄湯は認知症にも効果があり、認知症によく処方される抑肝散との併用も効果的であること、筋力を高める効果が動物実験や臨床調査で認められていて、老化による筋力低下を阻止できること、そして老化を防ぐ造血幹細胞を刺激して老化自体を遅らせる可能性があることなどでした。

  人参養栄湯の保険で認められる効能、効果は病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血などとなっていますが、もっと幅広い病態に使用されるべき漢方薬の一つと思います。

2018.10.31記載

«皮膚病雑記帳No.217

最近のトラックバック

2018年12月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
無料ブログはココログ