2017年10月30日 (月)

皮膚病雑記帳No.206

虚弱を絵に描いたような冷え症 ~和漢診療学、あたらしい漢方 寺澤捷年著より~


 現代東洋医学の重鎮の一人、千葉中央メディカルセンター和漢診療科部長(元富山医科薬科大学、千葉大学教授)の寺澤捷年先生が書かれた、和漢診療学、あたらしい漢方(岩波新書)いうタイトルの新書(新書にしては内容がかなり濃いテキストのようでした)を読みました。和漢診療学とは漢方と西洋医学の叡智を結集した医学ということです。和漢診療学との命名に西洋医学が入っていないので、いささか違和感を覚えますが、本を読んでいくにつれて和漢診療学を理解すると、違和感がなくなりました。全体を通して寺澤先生の漢方に対する情熱、愛情が随所に感じられました。

 その中で和漢診療が見事に奏効した症例を紹介されています。症例診療室の一日という第一章の十一話に、虚弱を絵に描いたような冷え症というタイトルの話が登場します。

 「40代の女性で、ともかく体がだるくて、どうにもならない。朝起きて出勤のための身支度をしている途中で疲れてしまい、横になりたくなるという。受診前の一年間ほどは口唇ヘルペスが月に一度、ひどいときは月に三回も起こっていたという。風邪もひきやすく、しばしば膀胱炎にもなった。冬には手足が冷え、夏でも冷える。たちくらみもしばしばある。以前からむくむ傾向があり、最近では足の裏がむくむ気がするという。一年前にインフルエンザにかかったが、体温は35℃しかなかったともいう。初診時に型どおりの尿と血液と甲状腺ホルモンの検査をしたが、なんの異常もない。ただ、血圧は102/60と低く、起立して測ると94/62と、さらに低くなった。体温は36℃であった。
 漢方医学的にみると、顔色は寒々としており、手足の末端がとくに冷えており、膝から下にむくみがあった。ソックスのゴムの当たる部分がぺコンとへこんでいた。脈は沈・細・弱。舌は正常。腹部をみると全体に冷えてはいるが、異常な兆候はない。これは陰陽論でいう陰の状態で、水滞が著しい。これを改善するのに最適な方法は真武湯である。これを四週間服用してもらったところ、ひどい疲れが半減した。下肢のむくみも半減した。さらに食事や運動の生活指導をして約一年が経過したが、『人生が変わった』というほどに疲れ感から解放され、口唇ヘルペスも、膀胱炎も起こらなくなっている。」

 体がだるくて、どうにもならない。風邪もひきやすく、しばしば膀胱炎にもなった。冬には手足が冷え、夏でも冷える。たちくらみもしばしばあるなどは、確かに虚弱を絵に描いたような冷え症の患者さんの症状と言えるでしょう。冷えのある虚弱な体には真武湯がかなり有効と思われます。また真武湯の話になってしまいました。

この話の最後に、ある医師会の講演会で、医師達に向かって「毎月のように風邪や膀胱炎、中耳炎で皆さんを受診する患者さんがいたとき、どうしてその虚弱な体を丈夫にしようと考えないのですか。それに気づかない皆さんが病的なのです。」と言われています。「診療に漢方薬など必要ないという医師が多いが、必要なことに思い至らないのだ。しかしそれが現在の医療界の現実である。」と書かれていたのは印象的でした。
 

2017.10.30記載

2017年9月29日 (金)

皮膚病雑記帳No.205

半夏厚朴湯

 大塚敬節先生の金匱要略(きんきようりゃく)講話を拾い読みしていたら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の解説に出会いました。本文では、『婦人、咽中(いんちゅう)、炙臠(しゃれん)有るが如きは、半夏厚朴湯を主(つかさど)る。』となっています。大塚先生の解説では「臠」というのは肉の切れのことで、「炙臠」というのは、炙った肉の切れとなっています。女の人で、咽のなかに炙った肉の切れがついているように感じる者は半夏厚朴湯の主治であるとなっています。

 半夏厚朴湯の効能・効果は気分ふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症などとなっています。この咽喉、食道部に異物感があることが、咽中炙臠のことです。

 ここで大塚先生は興味深いことを言われています。「咽中炙臠いう状態はかならず咽でなくてもいいのです。もうずっと前の話ですが、心臓のところにハンカチかなんかを丸めたようなものがくっついていて、いつも気になって、心臓のところをさすっている人がいたのです。それに半夏厚朴湯を使いましたら、スーッととれたのです。また腹に物があるようで、はっきりしないという人も半夏厚朴湯でスーッと治ってしまったのです。」

 半夏厚朴湯は咽中だけでなく他の部位の炙臠にも効果があるということになります。身体のどこかに、ものがはりついた、ものがあるなどの症状があれば、半夏厚朴湯をぜひ処方してみようと思います。これまで咽喉、食道部の異物感にこだわっていましたが、金匱要略講話を読んで処方の応用範囲が拡大しました。


2017.9. 29 記載

2017年8月30日 (水)

皮膚病雑記帳No.204

真武湯の皮膚疾患への応用

 7年前の2010年8月にこのブログで真武湯について記載しました。変わらず私の好きな頻用処方の一つです。

 真武湯は新陳代謝の低下している人のさまざまな疾患に用いられます。胃腸疾患、高血圧、神経衰弱、リュウマチ、老人性瘙痒症など、合計17の疾患に保険適応があります。真武湯が数あるエキス剤のなかで最も多くの種類の疾患に処方されています。

真武湯の構成生薬は茯苓(ぶくりょう)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、生姜(しょうきょう)、附子(ぶし)の5味のみで、生薬数が少ないので、効果は早く現れます。茯苓、芍薬、蒼朮は水分代謝を改善し、生姜、附子は体を温めます。

 真武湯が皮膚疾患に処方されることは少ないようですが、結構よく効きます。真武湯が奏効したアトピー性皮膚炎、手の湿疹、尋常性痤瘡の症例を紹介します。

 
 アトピー性皮膚炎の症例は47歳、男性です。顔面、躯幹、四肢に鱗屑を伴った紅斑を認め、アトピー性皮膚炎と診断。抗アレルギー剤とステロイド外用剤、標治(現在ある症状に対する治療)として消風散、または温清飲など、本治(症状の元となっている体質を変える治療)として瘀血を認めたため、桂枝茯苓丸を処方しましたが、ある程度軽快するもしばしば増悪していました。ある日の診察時に腹壁を触れてみたところ、冷えを認め、桂枝茯苓丸に変えて真武湯を処方しました。1ヶ月で腹壁の冷えは少し改善し、2ヶ月目には皮疹の改善が認められ、特に顔面の紅斑がかなり消失し、健常な皮膚が認められるようになりました。

手の湿疹の症例は55歳、男性。乾燥性の手湿疹を認め、抗アレルギー剤、ステロイド外用剤、5%サリチル酸ワセリン混合軟膏などを処方しましたが、あまり改善傾向がみられませんでした。初診時からほぼ1年経過し、冬場になったためか、手の乾燥傾向が目立つようになりました。舌診にて歯圧痕を認め、腹診にて下腹部の冷えを認めたため、真武湯を処方しました。真武湯処方後、約1カ月でかなり乾燥傾向と皮疹が改善しました。また舌の歯圧痕が少し改善していました。その後良好な経過が継続していましたが、真武湯の効果を確かめるために一旦、真武湯を中止したところ乾燥傾向が増加し、再び投与したところ改善しました。現在も治療を継続しています。なお随時腹診をした際に真武湯に特有の寺師の圧痛点を確認することができました。

尋常性痤瘡の症例は31歳、女性。両頬部に散在性の紅色丘疹を認め、尋常性痤瘡と診断しました。抗生剤、抗菌剤の軟膏を処方しましたが、軽快と増悪を繰り返していました。初診から4ヶ月目に舌診で歯圧痕を認め、また手足が冷えることを目標にそれまでの西洋薬に加えて、真武湯を処方しました。さらに1週間後には生理前に皮疹が増加するとのことで、桂枝茯苓丸加薏苡仁を処方し、真武湯と併用しました。以後尋常性痤瘡の皮疹および顔面の皮膚の乾燥傾向が改善し、手足が冷えることが無くなり、また以前からの手湿疹が発症しなくなりました。

真武湯は裏寒虚証で、腹壁の冷え、舌の歯圧痕、皮膚の乾燥傾向などを目標に、本治として有効な処方でもっと皮膚疾患に処方されてもよい方剤と思われます。

 

2017.8.30記載



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