2017年9月29日 (金)

皮膚病雑記帳No.205

半夏厚朴湯

 大塚敬節先生の金匱要略(きんきようりゃく)講話を拾い読みしていたら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の解説に出会いました。本文では、『婦人、咽中(いんちゅう)、炙臠(しゃれん)有るが如きは、半夏厚朴湯を主(つかさど)る。』となっています。大塚先生の解説では「臠」というのは肉の切れのことで、「炙臠」というのは、炙った肉の切れとなっています。女の人で、咽のなかに炙った肉の切れがついているように感じる者は半夏厚朴湯の主治であるとなっています。

 半夏厚朴湯の効能・効果は気分ふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症などとなっています。この咽喉、食道部に異物感があることが、咽中炙臠のことです。

 ここで大塚先生は興味深いことを言われています。「咽中炙臠いう状態はかならず咽でなくてもいいのです。もうずっと前の話ですが、心臓のところにハンカチかなんかを丸めたようなものがくっついていて、いつも気になって、心臓のところをさすっている人がいたのです。それに半夏厚朴湯を使いましたら、スーッととれたのです。また腹に物があるようで、はっきりしないという人も半夏厚朴湯でスーッと治ってしまったのです。」

 半夏厚朴湯は咽中だけでなく他の部位の炙臠にも効果があるということになります。身体のどこかに、ものがはりついた、ものがあるなどの症状があれば、半夏厚朴湯をぜひ処方してみようと思います。これまで咽喉、食道部の異物感にこだわっていましたが、金匱要略講話を読んで処方の応用範囲が拡大しました。


2017.9. 29 記載

2017年8月30日 (水)

皮膚病雑記帳No.204

真武湯の皮膚疾患への応用

 7年前の2010年8月にこのブログで真武湯について記載しました。変わらず私の好きな頻用処方の一つです。

 真武湯は新陳代謝の低下している人のさまざまな疾患に用いられます。胃腸疾患、高血圧、神経衰弱、リュウマチ、老人性瘙痒症など、合計17の疾患に保険適応があります。真武湯が数あるエキス剤のなかで最も多くの種類の疾患に処方されています。

真武湯の構成生薬は茯苓(ぶくりょう)、芍薬(しゃくやく)、蒼朮(そうじゅつ)、生姜(しょうきょう)、附子(ぶし)の5味のみで、生薬数が少ないので、効果は早く現れます。茯苓、芍薬、蒼朮は水分代謝を改善し、生姜、附子は体を温めます。

 真武湯が皮膚疾患に処方されることは少ないようですが、結構よく効きます。真武湯が奏効したアトピー性皮膚炎、手の湿疹、尋常性痤瘡の症例を紹介します。

 
 アトピー性皮膚炎の症例は47歳、男性です。顔面、躯幹、四肢に鱗屑を伴った紅斑を認め、アトピー性皮膚炎と診断。抗アレルギー剤とステロイド外用剤、標治(現在ある症状に対する治療)として消風散、または温清飲など、本治(症状の元となっている体質を変える治療)として瘀血を認めたため、桂枝茯苓丸を処方しましたが、ある程度軽快するもしばしば増悪していました。ある日の診察時に腹壁を触れてみたところ、冷えを認め、桂枝茯苓丸に変えて真武湯を処方しました。1ヶ月で腹壁の冷えは少し改善し、2ヶ月目には皮疹の改善が認められ、特に顔面の紅斑がかなり消失し、健常な皮膚が認められるようになりました。

手の湿疹の症例は55歳、男性。乾燥性の手湿疹を認め、抗アレルギー剤、ステロイド外用剤、5%サリチル酸ワセリン混合軟膏などを処方しましたが、あまり改善傾向がみられませんでした。初診時からほぼ1年経過し、冬場になったためか、手の乾燥傾向が目立つようになりました。舌診にて歯圧痕を認め、腹診にて下腹部の冷えを認めたため、真武湯を処方しました。真武湯処方後、約1カ月でかなり乾燥傾向と皮疹が改善しました。また舌の歯圧痕が少し改善していました。その後良好な経過が継続していましたが、真武湯の効果を確かめるために一旦、真武湯を中止したところ乾燥傾向が増加し、再び投与したところ改善しました。現在も治療を継続しています。なお随時腹診をした際に真武湯に特有の寺師の圧痛点を確認することができました。

尋常性痤瘡の症例は31歳、女性。両頬部に散在性の紅色丘疹を認め、尋常性痤瘡と診断しました。抗生剤、抗菌剤の軟膏を処方しましたが、軽快と増悪を繰り返していました。初診から4ヶ月目に舌診で歯圧痕を認め、また手足が冷えることを目標にそれまでの西洋薬に加えて、真武湯を処方しました。さらに1週間後には生理前に皮疹が増加するとのことで、桂枝茯苓丸加薏苡仁を処方し、真武湯と併用しました。以後尋常性痤瘡の皮疹および顔面の皮膚の乾燥傾向が改善し、手足が冷えることが無くなり、また以前からの手湿疹が発症しなくなりました。

真武湯は裏寒虚証で、腹壁の冷え、舌の歯圧痕、皮膚の乾燥傾向などを目標に、本治として有効な処方でもっと皮膚疾患に処方されてもよい方剤と思われます。

 

2017.8.30記載



2017年7月31日 (月)

皮膚病雑記帳No.203

●漢方エキス製剤の効かせ方

 7月9日の日本東洋医学会島根県部会特別講演で谷川醫院の谷川聖明先生に『漢方エキス製剤の効かせ方』という演題で講演していただきました。

 エキス製剤は煎じ薬に比べて、簡単に手軽に飲める、一定の品質のものを飲める、煎じるときのにおいの心配がないなどの長所があります。効かせ方を4つに分けて説明されました。

 1.証に随う(随証治療)。例えば同じ膝関節痛の患者さんが2人いた場合、膝に水がたまり、触れると熱感があり、炎症が強い人には麻黄の入った越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)を、膝には水がたまっておらず、触れても熱感がなく、足が非常に冷たい人には附子の入った桂枝加朮附湯を処方します。同じ病名でも体質により処方が異なります。

 2.服用の仕方。インフルエンザの時には麻黄湯がよく処方されますが、効果が出るまで時間を空けず増量することが必要なことがあります。

 3.二剤の併用。慢性の経過で2つの病態が併存する場合、足りない作用を増強する場合、副作用を軽減する場合などは二剤を併用する必要があります。

 4.製薬メーカーの使い分け。同じ方剤でも製薬メーカーによって微妙に生薬の分量が異なり、効き方が違ってくるので、知った上で方剤を処方する必要があります。

 煎じ薬の方が良く効くと思われていますが、始めに挙げたエキス剤の長所を生かしながら、上手くエキス剤を使うのが現代医療における漢方治療の一つのあり方のように説明されました。東洋医学会の会員が対象だったので、ある程度漢方に詳しい人が多い中、大変役に立つ講演会だったと思います。

2017.7.31記載

«皮膚病雑記帳No.202

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