2017年11月29日 (水)

皮膚病雑記帳No.207

●3週連続の学会

 

 11月は学会シーズンなのか、たまたまなのか、5日(日)、12日(日)、19日(日)と3週連続で漢方に関する学会がありました。5日は広島県福山市で日本東洋医学会広島県部会、12日は愛媛県松山市で日本東洋医学会中四国支部総会、19日は鳥取県米子市で日本東洋医学会鳥取県部会、さらに18日の夜は地元松江市で八雲漢方研究会と、忙しい3週間でした。福山、松山までは公共交通機関を利用すると時間がかかるので車で移動し、福山は片道3時間、松山は4時間くらいかかり、結構疲れました。

 福山での広島県部会は皮膚科の漢方をテーマにした講演会だったので、ぜひ聴いてみたいと思い参加しました。3人の先生が皮膚科の漢方について話され、3人3様で面白く聴きました。その一人の広島県部会会長の井口先生は内科をされていますが、漢方薬をよく処方している先生は内科でも皮膚病を診ることが多く、小児の痒疹の治療例を報告されました。子供の心の異常が心(しん、五臓の一つ)の経絡を通って四肢に皮疹が出て、心の異常を改善する甘麦大棗湯(かんばくだいそうとう)が有効であった症例を報告されたのがとても印象的でした。小児の痒疹はよく経験するので、心が絡んだケースでは甘麦大棗湯を処方してみようと思いました。

松山での中四国支部総会では、ランチョンセミナーで、京都の高雄病院の田川直洋先生が経方医学的腹診による胸隔心下へのアプローチ ~心窩部頭側圧迫法を中心に~ というテーマで講演されました。心窩部頭側圧迫での陽性所見にて尋常性乾癬やアトピーで皮膚炎が改善している報告は驚異的でもありました。私は一般演題で、真武湯について ~自験例とテキスト、文献より~ という演題名で、発表しました。フロアーからの質問では真武湯は腎陽虚の病態で脾胃の異常ではないのでは?というものでした。高山宏世先生のテキストでは腎陽虚なっていますが、胃腸が弱った状態が多く、私は脾の異常と思っていますと返答しました。

 19日の米子での鳥取県部会では日頃漢方で切磋琢磨している倉吉の福嶋先生の会長講演、「整形外科領域における漢方治療」を聴きました。鎮痛剤は漢方薬ではあまり効かない印象をもっていますが、上手く処方すればよく効くようでした。私はランチョンセミナーで「皮膚疾患、もうちょっとマニアックな漢方治療」というテーマで講演しました。
皮膚疾患で日常よく診ているアトピー性皮膚炎、尋常性痤瘡の漢方治療を中心に、基本的な漢方処方ではうまく治らない症例に、処方することが少ない、もうちょっとマニアックな処方で奏効したいつかの症例を紹介しました。処方としては真部湯、通導散、人参養栄湯、六君子湯、辛夷清肺湯などを用いました。

18日(土)の夜は松江で八雲漢方研究会があり、5日の福山で特別講演をされた近畿大学皮膚科の柳原茂人先生に「八雲立つ 皮膚科漢方の使い方」という演題で講演していただきました。解りやすく、詳しく、そして面白い講演でした。漢方の方剤の中の生薬をグループ分けして、方剤間の関連性を上手く説明されていたのが印象的でした。

3週連続の学会、有意義なものでしたが、確かに疲れました。

2017.11.29記載

 

2017年10月30日 (月)

皮膚病雑記帳No.206

虚弱を絵に描いたような冷え症 ~和漢診療学、あたらしい漢方 寺澤捷年著より~


 現代東洋医学の重鎮の一人、千葉中央メディカルセンター和漢診療科部長(元富山医科薬科大学、千葉大学教授)の寺澤捷年先生が書かれた、和漢診療学、あたらしい漢方(岩波新書)いうタイトルの新書(新書にしては内容がかなり濃いテキストのようでした)を読みました。和漢診療学とは漢方と西洋医学の叡智を結集した医学ということです。和漢診療学との命名に西洋医学が入っていないので、いささか違和感を覚えますが、本を読んでいくにつれて和漢診療学を理解すると、違和感がなくなりました。全体を通して寺澤先生の漢方に対する情熱、愛情が随所に感じられました。

 その中で和漢診療が見事に奏効した症例を紹介されています。症例診療室の一日という第一章の十一話に、虚弱を絵に描いたような冷え症というタイトルの話が登場します。

 「40代の女性で、ともかく体がだるくて、どうにもならない。朝起きて出勤のための身支度をしている途中で疲れてしまい、横になりたくなるという。受診前の一年間ほどは口唇ヘルペスが月に一度、ひどいときは月に三回も起こっていたという。風邪もひきやすく、しばしば膀胱炎にもなった。冬には手足が冷え、夏でも冷える。たちくらみもしばしばある。以前からむくむ傾向があり、最近では足の裏がむくむ気がするという。一年前にインフルエンザにかかったが、体温は35℃しかなかったともいう。初診時に型どおりの尿と血液と甲状腺ホルモンの検査をしたが、なんの異常もない。ただ、血圧は102/60と低く、起立して測ると94/62と、さらに低くなった。体温は36℃であった。
 漢方医学的にみると、顔色は寒々としており、手足の末端がとくに冷えており、膝から下にむくみがあった。ソックスのゴムの当たる部分がぺコンとへこんでいた。脈は沈・細・弱。舌は正常。腹部をみると全体に冷えてはいるが、異常な兆候はない。これは陰陽論でいう陰の状態で、水滞が著しい。これを改善するのに最適な方法は真武湯である。これを四週間服用してもらったところ、ひどい疲れが半減した。下肢のむくみも半減した。さらに食事や運動の生活指導をして約一年が経過したが、『人生が変わった』というほどに疲れ感から解放され、口唇ヘルペスも、膀胱炎も起こらなくなっている。」

 体がだるくて、どうにもならない。風邪もひきやすく、しばしば膀胱炎にもなった。冬には手足が冷え、夏でも冷える。たちくらみもしばしばあるなどは、確かに虚弱を絵に描いたような冷え症の患者さんの症状と言えるでしょう。冷えのある虚弱な体には真武湯がかなり有効と思われます。また真武湯の話になってしまいました。

この話の最後に、ある医師会の講演会で、医師達に向かって「毎月のように風邪や膀胱炎、中耳炎で皆さんを受診する患者さんがいたとき、どうしてその虚弱な体を丈夫にしようと考えないのですか。それに気づかない皆さんが病的なのです。」と言われています。「診療に漢方薬など必要ないという医師が多いが、必要なことに思い至らないのだ。しかしそれが現在の医療界の現実である。」と書かれていたのは印象的でした。
 

2017.10.30記載

2017年9月29日 (金)

皮膚病雑記帳No.205

半夏厚朴湯

 大塚敬節先生の金匱要略(きんきようりゃく)講話を拾い読みしていたら、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の解説に出会いました。本文では、『婦人、咽中(いんちゅう)、炙臠(しゃれん)有るが如きは、半夏厚朴湯を主(つかさど)る。』となっています。大塚先生の解説では「臠」というのは肉の切れのことで、「炙臠」というのは、炙った肉の切れとなっています。女の人で、咽のなかに炙った肉の切れがついているように感じる者は半夏厚朴湯の主治であるとなっています。

 半夏厚朴湯の効能・効果は気分ふさいで、咽喉、食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う次の諸症:不安神経症、神経性胃炎、つわり、せき、しわがれ声、神経性食道狭窄症、不眠症などとなっています。この咽喉、食道部に異物感があることが、咽中炙臠のことです。

 ここで大塚先生は興味深いことを言われています。「咽中炙臠いう状態はかならず咽でなくてもいいのです。もうずっと前の話ですが、心臓のところにハンカチかなんかを丸めたようなものがくっついていて、いつも気になって、心臓のところをさすっている人がいたのです。それに半夏厚朴湯を使いましたら、スーッととれたのです。また腹に物があるようで、はっきりしないという人も半夏厚朴湯でスーッと治ってしまったのです。」

 半夏厚朴湯は咽中だけでなく他の部位の炙臠にも効果があるということになります。身体のどこかに、ものがはりついた、ものがあるなどの症状があれば、半夏厚朴湯をぜひ処方してみようと思います。これまで咽喉、食道部の異物感にこだわっていましたが、金匱要略講話を読んで処方の応用範囲が拡大しました。


2017.9. 29 記載

«皮膚病雑記帳No.204

最近のトラックバック

2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ